VR酔いの生理機序

背景と目的

近年、VRを楽しめる機会が急速に広まりつつある一方で、VRコンテンツを体験する時の酔い(VR酔い)の低減が求められています。

VR酔いは、映像酔いの一種とされており、乗り物酔いと似た症状が生じる現象として知られています。VR酔いの抑制に関する先行研究の1つとして、後頭部への振動刺激が有効だと確認されています。

そこで、本研究ではVR体験を実際に被験してもらい、その結果起こるVR酔いを被験者自身に評価してもらいます。その結果を検証・分析することでVR酔いの原因を解明することを大きな目的としています。

【1】VRにおける身体行動拡張がVR酔いに与える影響

VR コンテンツで起きる可能性がある酔いやすいと考えられる状況を再現し、実際にVR 酔いと関係があるか実験を行いました。その状況としては、

  • VR映像のフレームレート(fps)が低下している状況
  • 実際の動きが遅延してVR映像に反映される状況
  • VR映像の視界が定常回転する状況
  • 実際よりもジャンプ時の高さがより高く表示される状況
  • 左右方向の向きが反転している状況

被験者には実際に用意した空間内で移動しVR 空間で描画されている球体を触れてもらいました。その実験結果としては、

  • 実際の動きが遅延してVR映像に反映される状況
  • VR映像の視界が定常回転する状況
  • 左右方向の向きが反転している状況

の3つの状況でVR酔いが発生しました。

実験で被験者がVR体験を行う様子とプレイヤーの画面

【2】後頭部への振動提示による酔いへの影響

この実験では,【1】で酔いを発現した状況下で後頭部に振動を発生させることにより、VR酔いを軽減させる効果が現れるのか調査することを目的としています。Unityプログラム内蔵のPC、Meta Quest2(Oculus Quest2)、Joy-Conを連携するプログラムを開発し、実験を実施しました。

Joy-ConとMeta Quest2の連携システムの概要図

VR体験中に後頭部に巻き付けたJoy-Conから振動を与えることで酔いに変化が生まれるかを3つの映像条件で検証しました。

作成した振動提示装置(左画像)と装着した様子(右画像)

今回の実験で、どの映像条件でも後頭部への振動により酔いの程度の有意差は確認できなかったものの、提示刺激として与える映像条件によって酔いに与える影響の傾向が異なることが確認できました。

視界が定常回転する映像条件での実験の様子とプレイヤーの画面 
当初(左画像)見えていた画面が、被験者は動かずとも右に回転した映像が表示される(右画像)